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「非営利の金融機関・NPOバンクとは?」コミュニティ・ユース・バンクmomo代表理事・木村真樹さんインタビュー(1)

2014.03.27 

2005年に東海地域初のNPOバンクとして活動をスタートした、コミュニティ・ユース・バンクmomo(モモ、以下ではmomoと表記)。設立以来、「持続可能な地域づくりを担う事業者を支える」という趣旨に賛同する出資者から集めたお金と時間を元手に、融資やボランティアを通して、地域のNPOや社会起業家を支援しています。

今回はmomo代表理事の木村真樹さん(36)に、地域におけるmomoの役割と、活動のインパクト、そして今後の展望についてじっくりお話をうかがいました。 コミュニティ・ユース・バンクmomo代表理事・木村真樹さん

写真:オフィスにて。コミュニティ・ユース・バンクmomo代表理事・木村真樹さん

社会的投資を集めて、社会起業家やNPOに融資を提供

石川:まず「NPOバンク」について、教えていただけますか。

木村:シンプルに表現すると、NPOバンクとは非営利で運営される金融機関のことです。momoの場合は、出資者から配当のない出資金を集めて、NPOや社会起業家といった「地域の担い手」に融資をしています。

石川:配当がないということは、経済的なリターンを求めない出資者が、momoの原資を提供しているということですか。

木村:そうです。出資者は、経済的なリターンではなく、地域における社会課題の解決や起業家の育成など、社会的なリターンを期待してmomoにお金を託しています。寄付ではなく出資なので、返してもらえるお金ですが、元本より増えることはありません。 momoの仕組み

コミュニティ・ユース・バンクmomoのしくみ(momo WEBサイトより)

石川:なぜ銀行などの金融機関ではなく、momoのようなNPOバンクが必要なのですか?

木村:既存の金融機関では、NPOや実績のない起業家に融資することが難しいからです。既存の金融機関は、基本的には営利企業です。地域に根ざした信用金庫など、地域を支えていることに誇りを持っている金融機関もありますが、利益を出さなければならないというプレッシャーがあることに変わりはありません。

そうなると、自然と融資はリスク回避的になるし、収益性を意識せざるをえません。融資審査においては、過去の実績や担保の有無を重要視することになりますし、小規模な融資案件の優先度は低くなります。同じ手間なら、金額が大きくて利息が稼げる案件のほうが儲かりますからね。こうして、事業者本人や事業が地域に与えるインパクトは、二の次になってしまうことが往々にしてあります。特に、景気が厳しい状況下ではそうなりがちです。

石川:そうなると、実績のない社会起業家や、担保として差し出す資産のないNPOは苦しいですね。

木村:多くのNPO法人は資産を持っていないし、株式会社のように出資を集めることもできません。そうなると、商品開発的な財源としては、補助金や助成金を獲得するか寄付を集めるしか資金調達の選択肢がない(*1)。そこで融資という選択肢を提供するのが、NPOバンクの役割です。

*1:事業のランニングコストを賄う財源としては、サービスの対価を受け取る事業収入や、行政事業などの受託収入もあります。

延べ45事業、累計1億円を超える融資実績

石川:momoの融資先としては、どのような事業者がありますか?

木村:これまでに延べ45の事業者に、累計1億円強の融資を提供(2014年2月時点)してきましたが、融資先のほとんどはNPO法人や一般社団法人などの非営利団体です。事業者の法人格ではなく社会性を重視しているので、株式会社に融資するケースも当然あります。

石川:具体的なケースとしては、どんなものがありますか。

木村:「NPO法人こうじびら山の家」は、典型的な融資先だと思います。こうじびら山の家は、都会から岐阜県の郡上市に移住した若者が2008年に始めたNPO法人で、岐阜県の中山間地域で都市部の若者やファミリー向けに田舎生活体験プログラムを提供しています。

代表の北村さんは、宿泊施設をつくろうと、10年以上使われていなかった里山の古民家を買い取ってリフォームを始めました。仲間を集めて手作りでやっても300万円ほど費用が必要だったので、半分を補助金で調達し、残りの150万円をmomoが融資しました。 こうじびら山の家の風景

写真:岐阜県郡上にある「こうじびら山の家」冬の風景(2008年当時)

石川:融資額は、数百万円くらいのものが多いですか?

木村:そうですね。レンジとしては最大で800万円、最小としては、25万円という融資もありました。

石川:その額だと、かえって銀行や信用金庫では借りられないでしょうね。クレジットカードのキャッシングでも集まる額というか、ちょっと頑張れば自分でも調達できそうな金額ですが、momoがそういった要望にも対応するのはなぜですか?

木村:金額の大小ではなくて、地域の担い手が融資を通して自立するかどうかが大事だと思っているからですね。その時も、事業者さんのお話を丁寧に聞くと、25万円は適切な金額だったのです。岐阜の山間部で、野菜をつくって毎日ちょっとずつ売りながら融資を返済していくというプランでしたが、僕らはそれを地域にとって大切な事業だと考えました。それに、「momoから借りたい」と言ってくださるわけですから。

石川:融資先の事業者も、無機質に与えられるクレジットカードのキャッシングで25万円引き出すよりは、ボランティアや出資者の顔がみえて、支援までついてくるmomoから借りたいと思うのは自然ですね。

支援者の時間を活用した支援の仕組み”momoレンジャー”

石川:融資だけではない、「時間による支援」についてお聞きしたいと思います。支援者の時間、つまりボランティアを使った支援を提供されていますが、なぜ、こういった支援の仕組みをつくったのですか。

木村:「地域のリーダーと若者が出会ったら、おもしろいコミュニティができるのではないか」と思ってアイディアベースで始めたのが”momoレンジャー”です。数十名の若手社会人や大学生によるチームが、情報発信など、様々な形で融資先を応援しています。

石川:momoという名前(*2)もそうですが、momoレンジャーというのも絶妙なネーミングですね。具体的な支援の内容をうかがってもよいでしょうか。

*2:momoという名称は、ドイツの児童文学作家ミヒャエル=エンデの『モモ』(副題:時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語)にちなんで付けられています。

木村:momoレンジャーは、「何を提供する」ということを特に定めていません。「地域課題に取り組む起業家を支援したい」と思った人が、色んな立場で、色んな関わり方ができることを大切にしています。だから、支援の内容も様々です。田舎体験プログラムを体験しに里山へ泊まりにいって、みんなでプログラムの中身を作ることもあるし、ITに強いmomoレンジャーが、融資先のWEBサイトを作ったこともあります。 momoレンジャーの活動風景

写真:momoレンジャーの活動風景

石川:融資とセットでボランティア・チームで支援するというと、銀行やコンサルティングファーム出身のおじさんが経営のアドバイスをしているイメージが浮かびますが、そうではない。「コミュニティ・ユース・バンク」の名前のとおり、ユース(若者)が主役になっているのですね。

木村:これはやってみて気づいたのですが、「アドバイスできない」ということが、若者による支援の良いところなのです。本当に経験と実績のあるシニア・プロフェッショナルが経営支援に入ると、特に若手の起業家であれば「なるほど、そういうものか」と思ってしまいますよね。言われたとおりやってうまくいった時はいいですが、そうでないと少なからず「あなたの言うとおりにやったのに、うまくいかなかった」という気持ちが生まれます。

石川:他者への依存が始まって、起業家の主体性が損なわれてしまう。助成金と同じような構造ですね。

木村:融資の目的のひとつは、融資先に「自分で決める力をつけてもらう」ことです。融資という仕組み自体にその力があることがわかりました。だから、momoが提供するボランティアによる支援はそれほど強力なものである必要はないと思っています。

石川:momoレンジャ-の役割は、ファンづくりに近いですね。レンジャーがまず融資先のファンになり、次に出資者や地域の人たちを巻き込んでいく。常に事業を見守る数十名のファンと、その先で情報を受け取る500名以上の出資者による支援のコミュニティは、起業家にとってはありがたいでしょうね。

木村:新しく何かに挑戦するときに一番困ることって、お金じゃないんです。孤独感だとか、最初のお客さんがついてくれるか、という不安こそ大きな問題なんです。そんな時に、無条件で応援してくれたり、勝手に周囲に宣伝してくれたりするお節介な人たちの存在は、つらい時の励みになるのではないかと思います。

石川:そうした取り組みを着々と積み重ねる中で、次の担い手は育ってきていますか。

木村:そうですね。これまでの融資先の中には、元momoレンジャーが立ち上げた事業が2つありますし、現在のmomoの理事も、ほとんどは元々momoレンジャーなんです。こういった動きが、続いていってほしいなと思っています。

続く:(2) 配当ゼロの出資者を集めることと、地元企業・金融機関を巻き込むことの共通点。なぜ地域の担い手を育てることが大切なのか。

(3) なぜ、momoを立ち上げたのか。木村さんが母親や地域から受け継いだもの。 コミュニティ・ユース・バンクmomoの求人情報はこちらから

コミュニティ・ユース・バンクmomo 代表理事/木村真樹

1977年愛知県名古屋市生まれ。大学卒業後、地方銀行勤務を経て、A SEED JAPAN事務局長やap bank運営事務局スタッフなどを歴任。2005年にコミュニティ・ユース・バンクmomoを設立し、若者たちによる“お金の地産地消”の推進や、市民公益活動へのハンズオン支援を行っている。13年4月には一般財団法人あいちコミュニティ財団を設立し、代表理事に就任。東海若手起業塾実行委員会理事、愛知淑徳大学非常勤講師、全国NPOバンク連絡会副理事長、認定NPO法人日本NPOセンター評議員なども務める。

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石川 孔明

1983年生まれ、愛知県吉良町(現西尾市)出身。アラスカにて卓球と狩猟に励み、その後、学業の傍ら海苔網や漁網を販売する事業を立ち上げる。その後、テキサスやスペインでの丁稚奉公期間を経て、2010年よりリサーチ担当としてNPO法人ETIC.に参画。企業や社会起業家が取り組む課題の調査やインパクト評価、政策提言支援等に取り組む。2011年、世界経済フォーラムによりグローバル・シェーパーズ・コミュニティに選出。出汁とオリーブ(樹木)とお茶と自然を愛する。